本郷 穂
プロデューサー
この企画は「自主映画を作りたい」という純粋な憧れから始まりました。
背景にはコロナ禍というのも影響していると思います。大学2年生のときコロナ禍となり、そこから約2年間はオンライン授業になるなど、いわゆる"普通"の大学生活は送れませんでした。成人式もまともにやれていない年代です。大学生活の半分を犠牲にした私たちは、4年生になって、あとは単位を揃えて卒業するだけでした。なんか悔しい。最後に何かをやりたい。何かを成し遂げて卒業したい。
その「何か」が私にとっては映画でした。もともと映画やドラマを見ることが好きで、学生で作る自主制作映画に憧れを抱いていました。その話に共感してくれたのが、監督の石田くんです。カメラ好きなのは知っていたので、彼とだったら実現できるかもしれないと思い、思い切って「自主制作映画をやらないか」と誘いました。そうしてスタジオ-ao-の土台ができたのです。
その後知り合いを誘っては人づてにメンバーが増え、15人のスタジオ-ao-が完成しました。
自分で言うのもおかしいですが、スタジオ-ao-は奇跡的なグループです。全員に光る才能があり、この映画ではその素質が存分に活かされています。芝居はもちろん、脚本や撮影、音響までもが全て、学生が担当しているというのはすごいことです。
ストーリーも就活や夢など等身大の大学生を描いています。ぜひ同世代の人たちに見てもらいたい作品です。
石田 龍太
監督
『サイアノタイプ』のモチーフの一つに、詩人、谷川俊太郎の「青は遠い色」という詩があります。海も空も、近づけば近づくほど透き通る、そういった「青」の「遠さ」は、今作の主人公である透と美晴の関係性にも通ずる部分があります。
青は届かないが故に憧れる、そんな側面を持つ色です。透も美晴も大学4年生で、「進路」がちらつく中、お互いの「青」に対して、その遠さだったり、劣等だったりを感じています。これは、撮影時、就活生だった私たちが、物語の中に就活を扱っていることで、リアルに描き出すことができました。
また、青は不気味さも纏っています。深い青に飲み込まれている佐藤という人物は、その青からの脱出か、はたまた染まるのか、物語のキーになっています。
『サイアノタイプ』はこうした「青」という色を強く意識した作品であり、それは物語としても、映像の色としても表現されています。サイアノタイプという言葉の意味を知れば、より今作の表現したいことを感じ取ることができるのではないかと思います。
宮嵜 瑛太
脚本
現実の私達において内面を晒すような発言は、その全てを言葉にはできず、断片的に口をついて出ることがあると感じています。作中のキャラクター達の台詞には、そうした部分が多くあります。
映像、演技、音などの要素と合わせて、それらを想像しながら楽しめるというのは、映画の面白さだと改めて感じました。
脚本を書くにあたり、今の私達だからこそ描ける作品にしたいけれど、ありきたりな青春物語にはしたくないという気持ちがありました。そのため感情描写の方法や、言葉選びに苦心しました。
登場人物にはそれぞれ抱える想いや葛藤があり、観た人がキャラクターの誰かに共感できればと思っています。私たちの世代に限らず、将来への不安を抱える人や、新しいことへの挑戦など、様々な岐路に立つ人をイメージして書きました。なので多くの方に観ていただきたいです。
前田 拓洋
音楽
私自身も実際に就活をするなかでの制作だったため、段々と解釈が深まってきました。
撮影が始まる前に脚本を読んでデモを制作した段階では、なかなか内定が出ず美晴や佐藤の不安に気持ちを重ねて歌詞を書いていました。撮影を経て、「夢なら、なんだってできる」という気持ちで改めて志望業界の面接に挑み内定を得てからは、本作の前向きな部分も主題歌の中に取り込めるようになりました。
音楽的にも、「楽しい」「悲しい」というような単純な感情表現ではなく、複雑な気持ちを抱いたままそれでも前に進む希望を持てる曲になるようコード進行などを意識しています。
本作に描かれている不安や焦燥、期待、高揚感といった多様な感情に寄り添った楽曲になっていれば嬉しいです。